先日、支払いをしようと財布から千円札を取り出したら、 妙な違和感があり、 チラリと目を向けると あのもじゃもじゃ頭ではなかったで『に、 ニセ札!???』と慌てたが、何てて事はない。
手にしていたのは旧千円札だったのだ。
お久しぶりです。夏目先生。
一体いつの間に 紛れ込んだのだろう。
幼少時代、最もお世話になった紙幣は 夏目先生だった。
新渡戸稲造さんならまだしも、 福澤さんは年に二回しかお目にかかれない遠い人だった。
とはいえ、夏目先生だって気軽に財布にいたわけではない。
子供の世界は硬貨で 十分だった。
当時、夏目先生二枚は大金だった。 二枚あれば立派な本も買えるし、たまごっちだって買えた。
紙幣を使う時のドキドキ感。ちょっと大物になった気分だった。
今は、昔よりも好きな本を買えるようになったけど、 買える喜びの特別感は圧倒的に昔の方がある。
昔 買ったものは どの本をどの本屋で買ったのか、大体 覚えている。
『特別』っていうのは、限られているから特別なのだ。
件の気づいたら入っていた夏目先生だが、今でも財布の中にいる。
新紙幣に変わって以来初めての事だったし、何より、●●● にとって夏目先生の紙幣は思い入れのある『特別』 なお金なのだった。